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東京地方裁判所 昭和35年(フ)21号 決定 1963年9月04日

決   定

東京都港区芝新橋二の八蔵前ビル

債権者(申立人)

板垣只二

同都港区芝田村町五丁目二七番地

債務者

逸見磐

右当事者間の破産申立事件について、当裁判所は、つぎのとおり決定する。

主文

本件申立を却下する。

理由

一、債権者は昭和三五年二月一日債務者に対する破産宣告を申立て、当裁判所は、この申立を適法と認めて審理中であるが、その間、その審理裁判について債権者は、

(イ)  昭和三五年三月三一日附上申書で「本件は当事者間に示談中であるので、債権者から破産宣告の申出をなすまで決定を延期されたい。」旨、

(ロ)  同年四月二六日口頭で「本件は両当事者間において示談解決を希望しているから決定を三、四カ月間猶予して欲しい。」旨、

(ハ)  同年一二月一四日電話による照会に対する回答で「債務者は、少額宛弁済しているので、本件審理を暫く延期して欲しい。」旨、

(ニ)  同年三六年二月一四日附上申書で「現在示談が進行中であり、同年八月頃までにその成否の見込がつく予定であるので同月末まで破産宣告決定を猶予されたい。」旨、

(ホ)  同三七年一〇月二四日附上申書で「示談解決のため本件審理を同三八年三月末まで延期されたい。」旨、

(ヘ)  同三八年七月二日附上申書で「債権者が病気入院中で当裁判所に出頭することができないから、本件審理を三カ月ないし四カ月間延期されたい。」旨、の各申請をした(以下単に「上申」という)。

当裁判所は、昭和三八年七月三日附の書面で債権者に対し示談の現況及び近日中に破産宣告決定を希望し、上申される意思の有無について照会したが、未だその回答がない。

二、ところで破産事件の審理裁判を或る期限又は条件にかからしむる破産申立即ち「或る期間は破産を宣告しない。」とか「現在交渉中の和解が不成立になるまで破産を宣告しない。」という留保を伴う破産申立は許されない。債権者の前記上申はいづれも本件破産申立後にこれと別個になされたものであるけれども、総て或る期間破産事件の審理裁判の延期を求めることを内容とし、その延期の期間も三、四カ月から半年間で数回連続してなされた。その結果、本件審理の進行が次第に示談の成否にかけられるようになり、当事者から審理の延期を求めてくるばかりで現に審理の見通しのつかぬ状況に到つておる。かかる場合、本件破産申立は前記上申と一体をなすものとしてその効力を判断すべきであるところ、本件破産申立は、前記上申によつて期限或いは条件付申立となるに到つたと解され、従つて本件破産申立は不適法である。

三、また破産を申立てた債権者の意思が真に債務者の破産宣告を求めるにあるというより、むしろ債務者に対する威かくとして破産を申立て、債務者をして弁済の努力をさせ、破産手続をして独り満足を求めるための手段として利用するにあるときは、かかる申立は申立権の濫用であつて許されない。

そして前記上申の経緯によれば、本件破産申立は、真に債務者の破産宣告を求めるためというよりは、債権者の個人的満足の追及のみを目的とし、債務者との示談交渉を有利に展開する手段としてなされたものと解される。(なお債権者は、昭和三五年二月二七日附上申書で、当事者間の示談解決の見込を理由に破産手続費用の予納期日の延期を申請しているがこの点も以上の判断に資するものと考える。)従つて本件破産申立は、申立権の濫用であつて不適法である。

四、以上のとおり本件破産申立は不適法な申立であつて、その欠缺の補正ができないものと認められるので、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

昭和三八年九月四日

東京地方裁判所民事第二十部

裁判官 高 木   實

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